景観は市民社会成熟度のバロメータ

 1999年、東京都国立市のシンボルともいえる大学通りに突如持ち上がった巨大マンションの建設計画。その時、私は市民が長年にわたってつくりあげてきた景観を企業利益のみを追求する開発業者が、一気に破壊する凄まじいまでの傲慢さに、思わず「開発業者にうまい汁を吸わせるために、私たちは国立の環境を守ってきたわけではない」と叫びました。
このマンション紛争は裁判に持ち込まれ、2006年、建物の撤去はかなわなかったものの、最高裁で大学通りの良好な景観は保護する価値があり、近接する居住者の「景観利益」を認める、はじめての画期的な判断がくだされ、決着をみました。
前年の12月、私たちの運動を支援してくださった、多くの市民グループが手を結び、設立したのが「景観市民ネット」です。
以来、景観市民ネットには数え切れないほどマンション建設や公共事業による景観紛争が持ち込まれ、問題の根深さを痛感させられてきました。
つい数年前まで、住民側が裁判を起こしても勝訴するなどという例は、極めて希でしたが、2009年、広島県鞆の浦の公共事業の差し止めを求めた行政訴訟が景観利益を損なうという理由で住民勝訴となるなど、社会の動きは変わりつつあります。
大切なことは、「まちの景観は誰のものか」という素朴な問題に市民がしっかりと関わり、一人一人がまちづくりの主役であるという意識を持つことであり、次世代に誇れる景観を残すことだと思います。

 景観市民ネット 代表 石原一子